ETFの本質的価値を知る(2) "高すぎるETF" の見極め方





今回はETFの本質的価値を、具体例を見つつ考えていきます。


まずその前に、今の米国市場がどのくらいの価格ラインにあるのか、セクター別のバリュエーションを見てみましょう。



実績PER (2018.3.6時点):

Utilities 19.1
Technology 29.2
Financial 18.0
Basic Materials -
Services 23.8
Consumer Goods 17.0
Healthcare 26.7
Industrial Goods 26.7
S&P 500 全体 25.4


株価フリーキャッシュフロー倍率:

Utilities -
Technology 26.6
Financial 17.4
Basic Materials 20.2
Services 27.4
Consumer Goods 29.2
Healthcare 29.7
Industrial Goods 33.7
S&P 500 全体 28.8

※注:赤字のため計算不能と思われるものは除外しています。



ここでは、ハイテクや重工業などの人気セクターを中心に大分な高値を付けていること、更に米国市場全体(S&P 500)で純利益では25年分、FCF(フリーキャッシュフロー)では29年先まで、既に価格に織り込まれているのが分かります。


そして、こうしてザッと見ただけでも、長期的な投資妙味が残されているのは、いくつかのセクターだけだろうことも見て取れますね。






ETFの本質的価値


さて、ETFの本質価値を求めるに当たり、私が思う最も投資妙味が残されているセクター、金融セクターを例に計算を行っていきます。


そして本質的価値は、バフェット・マンガーが言う、(1)企業から取り出せるキャッシュの将来の総和を、(2)米国長期債の利回り、ないし適切な利回りで割り引き現在価値に換算したものという考えで計算していきましょう。


金融セクターの本質価値


金融セクターの株価フリーキャッシュフロー倍率は17.5倍です。つまり取り出せるキャッシュで言うと、年利回りは(100/17.5 = 5.72%)になりますね。


例えば金融セクター自体を一つの株式と考えてみます。仮に現在の時価総額を100ドルとすると、ここでは毎年5.72ドルのリターンが得られる訳です。


更に今後の米国金融業の業績がどう推移していくか、ここを含めて考えていきます。


2011年から2018年までの金融セクターの純利益成長率は年9.4%でした。


今後の経済の推移がどうなるか、正確な予想が難しいのは勿論のことですが、ここでは(1)このまま年10%成長が持続するケース、また、(2)7%、(3)5%、(4)0%成長のケースを考えてみましょう。


(1) 米国経済が強気を維持する場合(年10%成長)


まずは現在好調の米国経済がこのままイケイケの状態を維持した場合を考えます。


これから10年間で得られるキャッシュが年10%ずつ増加していくとし、かつ、10年後の株価はフリーキャッシュフローの20倍であったとします。




この場合、将来キャッシュフローを現在価値に換算するのに10%を用いますと、ここでは10年間で取り出せるキャッシュの総和=本質的価値は171.6ドルということになりますね。


これは現状の100ドルを年10%の利回りの安全資産(債券)へ投資した場合と比べて、なお71%のリターンが得られる計算です。なかなか良い結果ですね。


注:
長期債金利が低い際は、バフェットは割引率に年10%を用いるため当ブログの計算もそれに準じています。


(2) 途中で調整が入る場合(年7%成長)


しかし年10%の成長を維持できる見込みというのは、少し楽観的に過ぎるでしょう。米国市場はそろそろ高値感が強く、途中で調節が長期に渡り入る可能性もあり得ますよね。


次はもう少し現実的に、平均7%/年で利益が成長していく場合を見てみましょう。




10年後の株価はフリーキャッシュフローの15倍とし、この場合に10年で得られるキャッシュ=本質価値は114ドルです。


年10%利回りの債券と比較して、更に、14%のリターンが加えて得られるのですからこれはまずまずの数値でしょう。


(3)恐慌が起こる場合(年5%成長)


次はバブルが弾け、恐慌が発生した場合を考えてみましょう。ここ数年で恐慌が生じ、そのため株価や業績が一度大きく落ち、10年間の平均的な利回りも5%まで落ちてしまう場合です。




将来の株価はフリーキャッシュフローの12.5倍で見積もると、本質価値は89.6ドルになり、年10%の債券に劣後してしまいます。これを年利回りに換算すると、9%弱といったところです。


これは、私からするとあまり積極的に投資したくない水準です。


(4)大恐慌が再来した場合(年0%成長)


最後に悲観的シナリオを考えます。


大恐慌や、70年代の株式の死と言われた時代のように長期の超弱気相場が続いた場合、ないし米国本土で核・バイオテロが生じた場合などがこの場合は想定されます。


10年間で利益成長は0%、かつ10年後の株価はフリーキャッシュフローの僅か10倍というヘビーな設定です。




この場合の本質価値は57.2ドル、投資開始時の100ドルに比べて、実に厳しい水準です。


実際のところは?


さて実際の金融セクターの成長率がどうなるか、これは神のみぞ知るところなのですが、ここでは(1)年10%、(2)7%、(3)5%、(4)0%成長の可能性が5:40:50:5と考えてみます。


これは今後10年間の利益成長率が平均で年6%弱という、まずまず現実的な肌感覚かと思います。


この場合の本質価値の平均的な見積もりは、0.05×171 + 0.4×114 + 0.5×89 + 0.05×57.2 = 102ドルになります。


したがって、私の見立てたところの金融セクターの本質価値は、概ね70-140ドルの間、恐らく100ドル前後と考えています。安くも高くもない、つまり適正値という訳ですね。


尚、セクター全体の負債はこの場合考慮していません。というのは、企業における負債は通常、個別株であれば業績が傾き、赤字が意識され始め、負債による金利支払いが滞る可能性が高い段になって、そのリスクは真実味を帯びてきます。


例えばフィリップス・モリスなどの優良企業がその優位性を失わないうちは、多少社債を発行し債務が増加したとしても、誰も債務不履行など考えもしないし、実際にそのデメリットはほぼ無い訳ですね。


ですので、セクター全体を対象とした投資や、大型優良企業を対象とした投資の場合は、私は本質価値の計算に当たり負債額は過剰な範囲で無ければ許容することにしています。


ですがこれが2流シケモク企業の場合は、負債を含めた清算価値の評価もキャッシュフロー計算では必要となりますので、ここではその考え方の違いにもご留意下さい。


低リスクの10%利回り債券の場合




ちなみに10%のリターンの債券に投資する場合、リターン及び将来の時価総額(100ドルを10年後の割引率で割り引いたもの)の総和を現在価値に換算すると、当然のことながら、本質価値は100ドルとなります。


私の考え


という訳で、現状最も割安と思われる金融セクターでも、実はフェアバリューであり、大きな投資妙味は無いと私は考えています。


しかしながら、私が現在、金融セクターETFの購入を続けているのは、(1)他のセクターより相対的に安いこと、(2)金利上昇によって高い確率で利益率=本質価値の改善が見込め、金利上昇局面ではそこそこの買い物であるためです。


これに比べ、S&P 500全体や、ハイテクセクターは悲惨であり、実際に計算すると既に本質価値の2倍以上の価格を付けているのです。


この価格はかなりの危険水準に近付いており、国債金利の上昇と、恐らく今後ますます高まるレバレッジの圧力により、数年以内に崩壊に至る確率が高いものと推測します。


そして前回お伝えしたように、行っているのが積み立て投資であっても投資の本質に変わりはなく、明らかな高値の商品=バブルには近寄らないことが賢明と私は考えます。


そしてもう少し時間が経って、更なる高値を市場が更新しだすようになれば、その時は私自身、市場平均・セクター投資も中止し、資金を本格的に引き揚げるタイミングを計る必要があるだろう、そう感じています。



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2 件のコメント :

Unknown さんのコメント...
小塚 崇史 さんのコメント...