非常に高いバリュエーションの今の株式市場において、バブル崩壊を来した場合米国債を使って株価暴落に対しどう備えるか、今回はここにかかる私見をお伝えしていきたいと思います。
米国株と米国債、並び立つ両雄
まず初めに一つ質問です。
米国株式市場全体のリターンを決めるものは何でしょうか?
インフレ予想? 政治・戦争リスク? 優れたイノベーションの質と量? さまざまな要因がありますよね。しかし、あえて一つ選べと言われた場合に私が答えるのは米国株式最大のライバル、米国債の利回りです。
これは、株式の期待利回りはリスクを取る株式の性質上、債券の利回りを自然と上回るようになるためです。つまり株式期待利回り > 債券利回り、のリスクプレミアムの上乗せがなければ、わざわざリスクをとって株式を購入する意味が無いということですね。
そのためもし一時的に株式期待利回り < 債券利回りとなる位に株式が買われたとしても、より高い利回り・安心を求める人間の心理によって、やがて歪んだ価格は是正されることになるわけです。
そのため債券の利回りは、重力のように(時には無重力のように)、株価に作用する性質を持ちますし、債券と株式は経済の両輪としてつねに関連し合っています。これは金融において最も重要な概念の一つです。
万物は流転する
現在の世界では多額の資金が利回りを求め、アダム・スミスの言った「神の見えざる手」、即ち需要と供給の原則により、絶えず最も利回りが高い資産を求めて流入する性質を持ちます。
実際に金利とS&P 500の利回りを比較してみましょう。
上図は実効FF金利と、S&P 500の期待利回り(PERの逆数)を比較したものです。S&P 500開設の1957年から現在までの60年分のデータを、私がプロットし作図しました。
なお、PERは株価が何年先の純利益までを織り込んだかという指標ですので、その逆数は期待利回りと一般に言い換えられます。この概念は非常に重要なため、投資の初心者の方は是非ここは押さえて頂ければと思います。
図を見ると(FF金利 > S&P 500期待利回り)となった期間は、1974年、1980年、1987年、1997年、2001年、そして2007年でした。
そしてこの時期は、ニフティ・フィフティバブル、オイル・ショック、ブラックマンデー、ITバブル、リーマンショックと戦後の名だたるバブルがいずれも崩壊を来した時期なのです。
これは株高による歪んだ利回り関係がある場合、1年間保有すれば安全に支払いがなされる短期債がより魅力的な商品として別に存在する訳ですから、株式バブルが維持できないのは考えてみれば当然のことと思います。
では、過去を遡って詳しく見ていきましょう。
米国短期債 vs. 米国株式の歴史
1970・80年代前半 株式の死が叫ばれた時代
※赤線部は恐慌期。
まずは1958年-1980年代前半を見ていきます。
1958年から1970年頃まで大きな株価下落は無く、黄金の時代と呼ばれた順調な時代でした。
その転機となったのは1974年、ニフティ・フィフティバブルの崩壊によって生じた恐慌です。
このバブル崩壊は決してつぶれることは無い! 従って優良銘柄は無限に成長する! とされた優良大型銘柄(コカ・コーラ、IBM、マクドナルド、J&J etc.)を中心としたバブル形成と、オイルショックによる強力なインフレが合わさり起こったものでした。
つまり、強いインフレによる金利高 + バブルを背景に、短期債金利 > 株式利回りの関係が成立した時期だった訳です。
そして、引き続くオイルショックによる年10-20%の強力なインフレは高すぎる金利を呼び、あまりに高い金利はその後も株価を押さえ続け、「株式の死」と呼ばれる時代がその後続くことになります。
※注:
本シリーズでは恐慌の定義を市場平均が30%以上の下落を来し、その後3年以上に渡るバブル前ピーク値以下での株価低迷を伴うものとします。ここには様々な定義があるものと思いますが、詳細な定義を当てはめても投資実践に特段大きな違いは無いものと思いますので、ここではこのように定義しています。
1980年代後半 ブラックマンデー
そして時は流れ、1980年代です。
オイルショックによる強力なインフレは1980年代前半には政治的に終息します。そして原油価格の下落がもたらすインフレ率改善、それに伴う金利下落はバブル発生のパターン通りにまたも株高を生みました。
そしてその後の展開もパターン通りです。
楽観的な見通しのもとで買われた株式の潜在的な期待利回りの低下は(5.5%/年)、現実的な短期債利回りの存在には抗えず(14%/年)、やがてバブル崩壊を来すこととなります。
1990-2000年代 アジア通貨危機とITバブル
※赤線部は恐慌期。黄線部は通貨危機による調節期。
いよいよ我々の馴染みのある年代までやって来ました。
ここではアジア通貨危機(景気低迷は米国では短く恐慌よりは調節という印象ですね)、ITバブルが発生しました。
今回は90年代前半の低金利が株高を生みます。また91年にソ連が崩壊していますので、ここで莫大な軍事支出を生んでいた冷戦構造が終結したことも、実体的に、そして市場心理的にバブル形成に大きく寄与しているでしょう。
ここでもパターン通りに、株式期待利回りの低下と短期債の利回り上昇によって、いつまでも不自然な株高は維持できず、最終的にバブルは崩壊へ至っています。
2000年代以降 リーマンショック
※赤線部は恐慌期。
最後は2007年、リーマンショックです。
今度の舞台は証券化されたサブプライムローンとそれによる金融株を中心としたバブルでした。しかしバブルの主役こそ異なるものの、結局は高くなりすぎた商品の価格が、短期債の利回りとつり合いが取れなくなった時点でバブルが破綻しています。
そして、ここまで過去60年のバブル全てを振り返って来ましたが、ここから言えるのは、バブルは毎回違う顔をしているということですね。
ニフティ・フィフティ、オイルショックの終息による景気の楽観、冷戦の終結、IT、金融工学によるサブプライムローンの証券化など、いずれのバブルもその時々では未来を楽観視するだけの一見、十分な根拠があった訳ですが、いずれも楽観的な見通しが現実的な短期債金利と乖離しすぎた時点でバブルは崩壊しています。
そして、これは現在シリコンバレーを中心として起きている米国市場の高騰でも、いずれ同じ構造となるよう私には思えます。
米国債投資(ETF)への私の考え
以上より私は現状、国債投資に関して次のように考えています。
(1) 株式の期待利回りが債券より優れる間は株式の購入を続ける
(2) 株式・債券利回りがイーブンとなれば株式購入は停止する
(3) 債券利回りが明らかに優れる場合は一部の株式を売却、米国債保有率の上昇に舵を切る
しかしここで一つ債券投資家にとって不都合な真実があります。
過去の統計からすると長期のスパンでは、バブルの頂点で株式を購入したとしても、平均的に株式のリターンは債券のそれを大きく上回るという事実があるのです。そのため、早期かつあまり多くの債券をポートフォリオ内に組み込むことは、機会損失による痛手が懸念されます。
しかしさまざまな統計の内訳を見ると10年のうち9年は株式のリターンが優れるものの、1年は債券のリターンが優れており、この「債券が勝つ」期間は恐慌に概ね一致するのです。
従って数学的に明白に株式リターンが低下している市況が生じてくれば、「利回りが悪い」株式を売却して、「利回りが良い」国債を一定比率、検討する局面も出てくるでしょう。
要は米国債も個別株投資と同じで、その時期ごとに利回りに優れる不人気な(=割安な)商品を、柔軟に購入することがポイントだと私は考えています。
そしてバフェット率いるバークシャー・ハサウェイも、金利と景気の過熱感に応じて債券の保有比率を上下させていますから、バークシャーのIRにも適時注目しておく必要があると思います(バフェット自身、金利・株式の期待度によっては米国債は購入対象となると過去発言していますし、実際に大きなポジションを保有することもあります)。
それでは次回は、米国債の投資に更に一歩踏み込み、米国債を購入する際にとても重要なその本質的価値に関して考えていきたいと思います。
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