今回は前回に続き、ダウ平均・S&P 500・VTIの各指数の違いを考えていきます。
ETF (SPY, VTI, DIA) の米国株式市場での過去
時が明らかにする事実
まず過去にさかのぼって、S&P 500 (SPYで代用), ダウ平均 (DIAで代用), 米国市場全体(VTIで代用)を比較していきましょう。
こちらはリーマン・ショック後の最安値を付けた2009年2月から現在までのチャートです。
この期間では、概ねVTI ≒ S&P 500 >ダウ平均に見えますね。どうもダウ平均のパフォーマンスが悪いように見えます。
もう少し時間を巻き戻してみましょう。こちらはリーマン・ショック直前の景気の天井、2007年からのスタートです。
ここでは3者いずれもほとんどイーブンの結果を出していますね。先程に比べて、ダウ平均がややパフォーマンスを上げてきています。というのは、ダウ平均の恐慌時の下げが、S&P 500・VTIに比べて小さいからですね。
さらに時間を戻していきます。こちらはITバブル後の景気の底、2002年からのチャートです。
ここでもチャートを見ていて気付くことがあります。VTIとS&P 500は好況時にダウ平均をアウトパフォームするものの、景気循環の谷で大きくパフォーマンスを落とし、そして再度好況時に成績を伸ばしているということです。
従って、このチャートの期間では好況時の方が長い期間ですので、S&P 500がダウ平均をアウトパフォームすることとなっていると考えます。
ちなみにVTIは、これまでのどの期間をとってもS&P 500、ダウ平均の両者を総じてキャピタルゲインではアウトパフォームしています。優秀ですね。
大きく時間をさかのぼって景気循環の谷を二つ超えた1998年まで戻りましょう。ここでは、長期間でのダウ平均 > S&P 500が完全に明らかとなりました。
ここでもやはり景気循環の中でも好況時にS&P 500が強いこと、下落時にあまり落ちないのがダウ平均であること、そしてどうやら複数回の景気循環を繰り返すと次第にダウ平均が優位となってきていることが分かります。
時が示すETFの本質
さて、以上の検証からは下記の事実が分かります。
S&P 500:
・好況時に優れるが下落相場に脆弱。
ダウ平均:
・好況時はS&P 500に劣るが下落相場に強い。
・2003年・2009年の恐慌で3種中最も下げ幅が小さかった。
VTI:
・好況時に最もパフォーマンスに優れ、下落相場では脆弱。
※VTIは成績が2001年からとやや短く、更に長期観察すればよりETFの特徴が明らかになると思われる。
私見を申しますと、この結果を生む原因はインデックスにかかる様々なバイアスだと思います。
S&P 500は現在の米国市場を代表する大型銘柄を採用するという性質上、成長株も多く含むことになります。そしてS&P 500指数に採用されることは、(1)インデックスファンドからの多額の資金投入、(2)「一流」というお墨付きを得たことによる期待からの買いが集中することを意味しており、S&P 500に採用されたこと自体で株価が上昇、割高となるカラクリがそこにあるのです。
そして実際S&P 500に採用された銘柄は、株価が急騰することも多く見られます。
逆にダウ平均は、(1)「誰もが知る成熟企業」でなければ採用されず、(2)成長株に多い値がさ株は採用基準から故意に外され、(3)わずか30銘柄の平均という指標としてのオンボロさからインデックス投資の対象にもなり難く(DIA 220億ドル vs. SPY + IVV +VOO = 4800億ドルと人気の差が歴然です)、相対的に割安となりやすい条件が揃っているのです。
なお、ダウ平均は30銘柄と採用銘柄数が少ない関係上、ときにいくつかの銘柄の価格変動に指数全体がつられて動きこの傾向から外れることがありますが、長期の経過としては概ね上記の傾向です。
上図は前回もお見せした、長期間の各ETFのPERの比較です。
VTIは過去データが少なく短期間の数値しかありませんが、ここ5年間のPERは他指標より安値ないしイーブンですね。
VTIの長期ROE平均などが無いためはっきりしたことは言えませんが、米国市場全体を購入するVTIがキャピタルゲインで他2者を凌駕するという実績は、恐らくS&P 500指数やダウ平均という指数採用銘柄を購入すること、それ自体が指数の価格を吊り上げる構造により生まれるのでしょう。
そして、恐らくインデックスという一見無作為な購入に見える取引でも、そのインデックスの選別過程にバイアスがかかることにより、価格と価値の歪みを生むという皮肉な事実を表しているのだろうと私は思います。
配当金というオマケ
※縦軸の単位は%、各ETFの四半期配当金を合じたものより私がプロットし作図しました。
もう一つダウ平均に有利な点があります。それは配当金の水準では、ダウ平均が明らかに有利ということです。
ここ15年間の配当金の水準を比較すると、SPY vs. DIA vs. VTI = 1.94 vs. 2.28 vs. 1.86%となります。
トータルリターン
それでは総仕上げです。SPY vs. DIA vs. VTIの、配当金収入も含めたトータルリターンを比較していきましょう。
トップはVTI、ないしダウ平均
VTIが設立されたのは2001年です。まず2001-2017年のキャピタルゲインを複利計算器を用い計算します。
SPY vs. DIA vs. VTI = 4.99 vs. 5.49 vs. 5.71%/年
ここに先程の長期インカムゲインを加えると(注:2002-2016年と比較期間がわずかにズレていますが、概ね同水準だと思います)、総リターンは下記になります。
SPY vs. DIA vs. VTI = 6.93 vs. 7.77 vs. 7.57/年
VTI ≒ ダウ平均 > SPYの結果ですね。
第三選択はS&P 500
次は更に長期、DIAが開設された1998年からより長期のリターンを比較します。まずキャピタルゲインは下記です。
SPY vs. DIA = 5.41 vs. 6.18%
ここに先程の長期インカムゲインを参考値として加えると(注:配当率は2002-2016年より計算しており、比較期間がズレているのであくまで参考値です)、下記になります。
SPY vs. DIA = 7.35 vs. 8.46%
ダウ平均が明らかにS&P 500より優れますね。
私の考え
バブルからの距離
という訳で長期で比較するほど、VTI ≒ ダウ平均 > S&P 500という傾向になることが分かってきます。
もちろんこれは時期の切り方によって変わります。つまり好況を多くとるほどVTIとS&P 500が優れ、不況時が長いほどダウ平均が優れると思われるのです。
但しこの現象はあくまでダウ平均が相対的に割安という近年の傾向を反映した結果ですから、1970年代(ニフティ・フィフティ)のようにダウ平均を含む大型銘柄がバブルに沸く事態が起こればダウ平均でもリターン低下を免れないでしょうし、逆にITバブルのようにS&P 500に主体をおいたバブルが発生する場合はダウ平均のリターンがより際立つこととなるでしょうね。
要はバブルの主座がどこにあるのかということ、そしてバブルの中心から出来るだけ遠い銘柄を購入するという常識的な判断が、ETFの購入にあっても優れた長期的リターンを生むということなのだと思います。
そしてこういった結果を踏まえると、テクノロジーセクターを中心とした現在の高値相場では長期的に、低PER、高ROE、高配当という特性がダウ平均を高リターンに導いていく可能性が高いだろうと私は思います。
ETFの選択順位
これまでの結果を踏まえて、現状、各指標の優劣をあえて付けるならば、総合パフォーマンスに優れるVTIか、下げ相場に最も優れるダウ平均が第一選択、そしてS&P 500は第三選択ということになるでしょうね。
私自身はETF購入において、(1)強気相場があと数年は続くだろうという状況ではVTIないしS&P 500指数に連動したインデックスを購入し、(2)金利が上がりきりバブル崩壊が懸念されるような市況でETFを購入する場合はダウ平均を購入するように、使い分けています。
バフェットへの考察
最後にバフェットがなぜS&P 500に連動する指数を購入するよう遺言しているのか、私の見解をお伝えします。
バフェットほどの天文学的な資産の運用となると、投資先も超大型銘柄以外は対象になりません。これは小型銘柄では多額の資金によって投資対象の株価が跳ね上がることや、小型銘柄では実質的なリターンには殆ど結びつかないことが原因です。
S&P 500の時価総額は20兆ドル前後、そしてダウ平均はそのうちの25-30%とやや小型です。一方バフェットの資産が850億ドル、またバークシャー・ハサウェイの時価総額が5000億ドル弱ですから、その全額が指数への投資に投じられるとダウ平均でさえもその値上がりを招く可能性があり、ダウ平均の購入ではバフェットの資産の受け皿としては小さい可能性があると思うのです。
もう一つは、バフェットは残念ながらあまりインデックス投資に興味がなく(個別株投資の匠ですものね)、VTIやダウ平均などといった選択肢は実は真剣に考えていない可能性もあるのかと勝手に想像しています。
非常にポピュラーな投資対象であるETFですが、これまでお伝えしたような各々の特徴がその中には隠されています。そしてその特性をしっかり考えつつ市況に応じて用いていきたい、個人投資家として私はそう思っています。
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