シーゲル投資の問題点(5) 「株式リターンの97%は配当が生む」の問題



米国株投資におけるシーゲル理論の、高配当再投資戦略の基になっている根拠の一つとして、彼の著書「株式投資の未来」の中にある以下の発言が重要視されています。


1871年から2003年にかけて、インフレ調整ベースで、株式の累積リターンの97%は、配当再投資が生み出してきた。キャピタルゲインが生み出した部分は3%に過ぎない。


この発言に関して、「キャピタルゲインの影響はそのように小さいものなのか?感覚的にこの記載はあまりにも偏っているように思うがどうだろう?」と読者の方から質問を頂きました。


今回は、株式リターンの源泉が本当に大半がインカムゲインからなるのか、この点を考察していきます。




シーゲルが見る米国株のインカムゲイン


シーゲルの論点


※ジェレミー・シーゲル著 株式投資の未来より引用。


上図は、1871年に株式を1000ドル購入して、(1)配当を再投資したキャピタルゲイン + インカムゲインの場合と、(2)配当を再投資しなかったキャピタルゲインのみの場合のリターン比較です。


各々のリターンは800万ドル vs. 25万ドルと確かに大きなリターン差が開いているように見えます。


さて著作内の年平均リターンを見てみると、インフレ調節ベースで各々の年利回りは7% vs. 4.5%であったとのことでした。実際に複利計算機を用いて計算を行ってみましょう。


インカムゲインの効果


彼の仮定通りに1871年に1000ドルを投資して、122年経過を見てみたとします。得られるリターンは上記利回りを用いると下記になります。


キャピタルゲイン+インカムゲイン再投資:
1000 × (1.07^122) = 3844332ドル

キャピタルゲインのみ:
1000 × (1.045^122) = 214876ドル


従って、リターン差は384万ドル vs. 21万ドルと、確かに配当を再投資しなければリターンは94.5%ほど減じる結果になってしまうようです


※注:
なお私の行った検算と、シーゲル著作内の結果と数値が離れたものになっていますが、恐らくこれはシーゲルの著作内で小数点以下が省略されていることによるのだと思います(122年もの複利計算では小数点以下のわずかな違いでも大きな差を生みます)。彼の著作内の800万ドル vs. 25万ドルというリターンを生むには、利回りが7.64% vs. 4.6%であったと思われます。この点は後述する私の言いたい論点にはあまり影響はないと思いますので、著作内でシーゲルの挙げた数字を以降の計算には用います。


私が見る米国株のインカムゲイン


キャピタルゲインの効果


では逆に考えてみましょう。


インカムゲインが株式の利益の殆ど(97%)を占めるのであれば、逆にキャピタルゲインがこの122年全く無かったとするとどうなるでしょう?先のシーゲル博士の結論からすると逆にほとんど影響がない、つまり(3%)しか利益減を来さないことになるのでしょうか?


下記がその計算結果です。


キャピタルゲイン+インカムゲイン再投資:
1000 × (1.07^122) = 3844332ドル

インカムゲインのみ:
1000 × (1.025^122) = 20338ドル


なんと、キャピタルゲインが一切なくインカムゲインのみを122年間再投資し続けるという戦略では、リターンは僅か2万ドルになってしまいます。


これは、キャピタルゲイン + インカムゲイン再投資戦略に比べ99.5%の利益減です。


この結果をどう考えれば良いのでしょうか。


複利というトリック


複利計算において、しかも120年という長期においては、わずか数%の利回り差でもその結果は莫大な違いを生みます。


株式リターン(7%) = キャピタルゲイン(4.5%) + インカムゲイン(2.5%)


シーゲル博士の研究では上記の結果となっていましたが、総リターン(7%)の内、(2.5%)を占めるインカムゲインを恣意的に取り除けば、その総リターンが大きく毀損されるのは当たり前のことです。


もちろん、インカムゲインよりも大きい4.5%のキャピタルゲインを取り除けば、その総リターンがより大きく毀損されるのは当然のことでしょう。


これをシーゲル博士と同じ言い方をするのであれば、「株式の累積リターンの99.5%はキャピタルゲインが生み出してきた。インカムゲインが生み出した部分は0.5%にすぎない」ということになります


このような書き方・データの解釈法は、大きな誤解を生じるため学術的に非常によくないものと考えますし、こういったシーゲル博士の発言を見て、特に投資の初心者の方に配当金こそが株式リターンのほぼ全てを生むと誤解を招く可能性も大いにあり得ますので、注意を要するものと考えます


そして、統計学全般もこのように用い方によって結果を大きく異なったものに見せることが出来るため、解釈に注意を要することを申し添えさせて頂きます。


恣意的という問題点


シーゲル博士の著作全般において、配当金再投資戦略という自身の理論を強調するポジションから論理が展開されているというのが、大きな問題だと私は思います。


つまり論文中で彼の提唱したい意見が、配当金再投資戦略・10種戦略・コア10種戦略といずれも配当を重視するストラテジーであり、その優位性を強調するため、データの解釈に当たって様々な偏り(バイアス)をかけてしまっているだろうと思われるのです。そのためここを把握した上で、彼のデータは読む必要があると私は思います。


そして投資において私自身は、キャピタルゲイン・インカムゲインの両者いずれも同じく重要であると思っています。


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