シーゲル投資の問題点(1) 黄金銘柄のその後




「株式投資の未来」を始めとしたジェレミー・シーゲルの著作は、日本で米国株投資を行われている投資家の間では広く読まれていると思います。


私は医療統計学を用いた医学研究を行っております。彼の研究成果を投資方針に反映させるにあたり注意すべき事項があると考えますので、今回は統計学的見地も含めてシーゲル投資の注意点を考察していこうと思います。




シーゲル投資の研究モデル、その難点


シーゲル投資は、過去の米国株における投資成果の研究に基づいた投資になります。財政基盤に優れ、配当の上昇率に優れた生活消費財やヘルスケアといったディフェンシブなセクターを長期保有し、配当を再投資しつつ高リターンを目指す投資戦略です。過去の優れた成果を基に、こういったセクターへの投資が推奨される内容になっています。


さて、統計学では、後向き研究、前向き研究というものが存在します。


過去に既に起こったことを解析するのが後向き研究となります。これを解析するにあたっては(1)データの解析に研究者の主観が時に入ること、(2)過去の情勢と現在の情勢が異なるため同様の再現性が得られないことも多いことなどから、その後前向き研究で検証するのが通常です。


前向き研究とは平たくいうと実証実験です。例えば、株式でいうと実際に同額の資本を用いて100人 vs. 100人でシーゲル投資を行う群、それ以外の投資を行う群に分けて、実際にシーゲル投資で優位性が見られるか比較することとなります。


この前向き研究による、リアルワールドで彼の理論が正しいかどうかという実証はなされていないようです。


更に、シーゲル投資が普遍的なものであれば、彼の著作が出版されて10数年が経過した現在、シーゲル長者とでも言うべきS&P 500を大幅にアウトパフォームする投資家が次々と現れてくるはずと思いますが、私はあまり聞いたことがありません。


高配当戦略のその後


彼が研究した1957年-2003年の平均年リターン上位20銘柄、彼が黄金銘柄(コーポレート・エルドラド)と評した銘柄の現状はどうなっているのでしょうか。


黄金銘柄の現在のPER

1. Philips Morris 25.51
2. Abott laboratories 76.34
3. Bristol-Myers Squibb 20.56
4. Tootsie Roll Industries 33.55
5. Pfizer 23.8
6. Coca-Cola 48.08
7. Merck 33.49
8. PepsiCo 24.91
9. Colgate-Palmolive 26.39
10. Crane 33.77
11. H.J.Heinz (合併) -
12. Wrigley (買収) -
13. Fortune Brands  (買収) -
14. Kroger 13.77
15. Schering-Plough (買収) -
16. Procter & Gamble 25.06
17. Hershey Foods 34.25
18. Wyeth (買収) -
19. Royal Dutch Petroleum 27.86
20. General Mills 20.62

平均PER 31.2


シーゲル投資の利益の源泉は、例えばエクソンモービルの長期リターンが、往時のグロース銘柄であるIBMのリターンに勝っていたという著書内の例えにもあるように、企業の高い成長性と、それに対する低い市場評価のギャップにあるというものでした。そして株価下落により当然配当率は高いものとなるため、特に増配が続く銘柄で配当も併せて高いリターンを獲得するというものでした。


市場は、過去の業績が知れ渡るとその業績を織り込む特性があります。「たばこ銘柄の投資判断」でもお伝えしたフィリップス・モリス同様に、多くは高騰した価格を付けた過去のシーゲル銘柄は、今後突出した利益を生む見通しは高くないと私は考えます。


過去の成果をそのまま将来に当てはめるのは、多くのバイアスを生むため、統計学では厳に慎むべきことです。彼の投資戦略が過去の実績に立脚しているのは問題があると感じますが、投資の世界では前向き研究が行いにくいですので止むを得ない面もあります。


また彼自身の研究が有名となったことで、シーゲル銘柄の人気が増し高値をつけてしまった面もあります。


とは言え、彼の研究成果には注目すべきと思います。つまり投資家が行うべきは、今後のシーゲル銘柄を自身で探すことではないかと思うのです。ジェネリック医薬品や特許切れの脅威にさらされるヘルスケアセクターや、過去の堅実な業績から高値をつけている生活消費財セクターの中でも、まだ投資優位性が保たれている企業、或いはそれ以外の市場に無視されているセクターの未来のシーゲル銘柄を探すことが要求されると思います。


シーゲル自身が「いくら払ってでも買う価値がある銘柄はどこにもない」と言っています。この場合、私もそう思うのです。




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