今回はバブルが懸念される高値の市況で、実際に短期債・中期債・長期債をどのように使い分けて購入するか、また国債現物・ETFのいずれを購入するのか、私見をお伝えしたいと思います。
ETFと現物債と
ETFと現物債の特徴
まずは米国債の保有方法を考えていきます。
米国債には現物債を保有する方法と、ETFを購入する方法があります。それぞれの特徴を見てみましょう。
現物債の特徴:
・償還まで保有しきれば元本が保証されており、損をすることが無い。
・途中で売却する場合はその際の時価で売却することとなる。
・大手証券会社の取引のみとなる、従って為替コスト等が大きい。
ETFの特徴:
・償還期限は存在せず金利上昇局面で損失を生じうる。
・ETFとしてのコストは安く、流動性も大きい。
・ネット証券での取引可。
このように、現物債は償還まで保有すれば損失が無いというのが最大の利点です(ただしインフレ率による実質損はあり得ます)。
特に今のような金利上昇局面では、米国債の価格には強い下落圧力がかかりますので、中長期債はまず間違いなく長期的な含み損が出ます。しかしながら現物債であれば、とにかく償還まで持ち続けさえすれば利益は固定されている訳で、損失は無いわけです。
この特性によって、将来のキャッシュフロー計算が立てやすくかつ確実であり、そのため年金基金などの機関投資家や、リタイアした個人投資家からの人気が高いのはうなづけます。
一方、米国債ETFのメリットは運用の手軽さにあります。
恐らく読者の皆様の多くがメイン口座とされているであろうネット証券で取り扱いがあり、かつ慣れ親しんだETFでの取引が可能、そして手数料も多くは非常に安く抑えられています。
ちなみに流動性が高く、手数料も安く抑えられているという点(0.15%)から、私はBlackRock社の短期債 (SHV)・中期債 (IEF)・長期債ETF (TLT) を使用しています。
またETF選択においては、途中での解散と償還リスクも私の場合は重視しますが、最低でも1度の恐慌を耐えたETFという観点からもこれらを用いています。
私の考え
私の考えは、投資家の米国債の保有スタンスによって、いずれを保有するかは異なってくるというものです。
例えば私の場合、米国債は金利が明らかに株式利回り、そして本来あるべき自然利子率よりも相当に高いと考えられる場合に限って保有するスタンスです。
というのは、前回お伝えしたように米国債のリターンは10年間の内、9年は株式に劣ることが過去の歴史から判明しているからです。
ですから例えば10年物国債を、利回り差で株式よりも有利なときに国債を買いやがて売却することはあっても、償還まで10年間保有することは有りません。つまり中期的な売り買いを前提とする保有になる訳です。
そのため、私の場合では米国債ETFでの保有のメリットが大きいと思います。
特に現物債の場合、従来の大手証券会社しか取り扱いが無く、例えば米国債の購入にかかる外貨送金や為替、また売却後に得られたドルを株式に買い替えようとしても更なる手数料がかかることとなり、デメリットも多いと感じます。
逆に5-10年以上の長期保有を前提にされるストラテジーの方は、現物での米国債保有も選択肢に挙がるのではないかと思います。
短期・中期・長期債の特徴
次は短期債・中期債・長期債の使い分けを考えていきます。
※2006-2017年のSP500 vs. 短期債 vs. 中期債 vs. 長期債の価格チャート。
※SP500をSPY、短期債をSHV、中期債をIEF、長期債をTLTで代用。
上図はリーマンショック時の債券価格をS&P 500、及び短期・中期・長期債で比較したものです。ここから分かるように、恐慌の際(=金利低下局面)は残存年数が大きい国債ほどリターンが大きくなる性質があります。
ですがその一方、国債をいつまでも長期的に保有するほど株式をアンダーパフォームする可能性が高いことも統計からは分かっていますし、上図でも実際に国債を保有する妙味があるのは2007-2009年の恐慌期のみということが分かりますね。
つまり債券で利益を得るためには、恐慌期を選んで保有し、かつ読みが外れたときに備えてリスクを分散したポートフォリオを構成する必要がある訳です。
ですから国債保有を検討するにあたっては、(1)ポートフォリオ内のどれくらいを債券に振り分けるか、(2)(短期:中期:長期債)をどう保有するかという、2つの問題解決へのストラテジーがここでは不可欠です。
債券投資家の考え
※2018年2月13日の国債償還期限と修正デュレーションの関係、Wall Street Journal USより引用(http://www.wsj.com/mdc/public/page/2_3022-bondmkt.html)。
上図は米国債の年限毎の修正デュレーションを示したものです。金利が変動した際の価格の変動率、つまり金利が1%動くと米国債価格が何%動くのかという指標が修正デュレーションなのですが、1 → 5 → 10 → 30年物国債と進むにつれてこのデュレーション、つまり金利変動時の債券損益が大きくなることが分かりますね。
そして債券投資家は、このデュレーションを指標にして、イールドカーブのどの部分に重きをおきポートフォリオを構成するか決めていくのです。
例えば債券投資の代表的なポートフォリオ構成に以下があります。
(1) ラダー型
短期債・中期債・長期債までまんべんなく保有する布陣。
(2) ダンベル型
短期債と長期債を主に保有する布陣。金利の上げ下げどちらでも利益がでるため防御的なポートフォリオ。
(3) バレット型
10-20年物くらいまでの中期債を主力にする布陣。金利変化でキャピタルゲインを狙う攻撃的なポートフォリオ。
短期債ほど金利変動に対する価格変動が少なく、予期せぬ金利変動に対する耐性がある一方、長期債では金利変化によるキャピタルゲインが見込める可能性があり、互いに相反する性質を持ちますので、前者を多く債券ポートフォリオに組み込むほど金利変化にディフェンシブ、後者が多いほどアグレッシブとされます。
それでは、どれくらいのデュレーション、そしてイールドカーブリスクをとる債券ポートフォリオが、株式投資家にとって最適と考えられるのでしょうか?
私の考え
暴落が懸念される高値相場となった場合に当ブログが提案するのは、上記いずれのポートフォリオよりもさらに防御的な布陣、メインを短期債の保有とし、金利上昇につれ少しづつ中期債(10年物がメイン)を組み込んでいくものです。
例えば一例として以下のポートフォリオを提案します。
株式 60%
米国短期債 30%
米国中期債 5%
現金 5%
このようにデュレーションを短期化しディフェンシブな布陣をとるのは、前回お伝えしたように仮に投資開始時点の金利が5%であったとすると、低金利下では債券投資の期待リスクは金利0-5%の範囲である一方(マイナス金利になっても幅はやはり限定的でしょう)、下落幅は金利5-20%になり得るというリターンの非対称性がそこにあるからなのです。
そもそもバリュー投資というものが、好況時には市場平均と同じか、少し上回る位のリターンを目指し、恐慌時に損失を出さなければ、結果的にまずまずの成果を残せるという考え方から成ります。
ですからリスクを取る必要がある中期債は、十分な安全マージンを取れるときにのみ少しづつ投資し、基本的には価格変動がほぼ0である短期債の保有を中心にするということですね。
またこの際、私は(債券+キャッシュ)のポジションをポートフォリオ全体の30-40%ほどに留めることを考えます。
これは基本的に株式の保有では、適切な銘柄を選べばバブルの高値で掴んだとしても長期的には損失回避が可能な一方、債券では時期を外した場合、市場平均を機会損失によりアンダーパフォームすることを免れないからです。
従って損失の可能性が一定以上ある債券という「危険な」資産クラスは、分散投資の対象にするのがベターと判断するためです。
また株式ポートフォリオの内部でも株式を防御的なセクター中心に変更しておくことで、例えばハイテク一色のそれや、或いはS&P 500に比べて、恐慌時の損失を抑えることも可能と考えます。
なお、リーマンショック前、FF金利が5%付近でのバークシャーの(債券+キャッシュ)は資産の30%とこれと同じくらいの保有率でした。ここではバークシャーの考えも適時IRを見つつ戦略を構築されるのも一考かと思います。
そして株価の高値とその崩壊が懸念されるときに、どの程度の資産を安全資産クラスで保有するのか、ここには明確な正解がある訳ではなく、それはその人の年齢やリスク許容度にもよっても最適解は異なるものと思います。
最後に
米国債は、本来は額面からみて一定の利率が支払われるだけの単純な商品です。
ですが、その価格形成に市場関係者の将来にかかる期待・熱情・恐怖が反映されることで、景気循環の局面ごとにさまざまに顔を変える特徴があります。
そして多くの場合、安全性と引き換えに低いリターンしか得られないのは安定資産に共通した特徴なのですが、皆が安定資産に興味を失うバブルの頂点では絶好のバリュー投資対象になることが、大変興味深く思います。
是非この特徴を生かしつつ投資を続けていきたい、私はそう思っています。
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