今回は資産クラス(株・不動産・債券・金 etc.)によらず、投資のとても重要な考えかたである本質価値を考えていきたいと思います。
米国債(米国債ETF)の本質価値
株式における本質的価値は、その資産が将来的に生むキャッシュフローの累計を現在価値に換算したものと、チャーリー・マンガーは定義しました。
それでは米国債において、この定義を当てはめるとどうなるか見ていきましょう。
ここで仮に額面100ドル、利率が年5%、償還までの期限が5年の米国債現物があるとします。この現物債をそのまま保有すると毎年5ドルのキャッシュフローが5年間償還まで得られ、更に最終的に100ドルが償還されるわけですね。
そのためこの場合、100ドル + 5ドル×5年間 = 125ドルが本質価値です! としたいところなのですが、そう簡単には行きません。
というのは例えば期間中にインフレが仮に5%/年進んだとすれば5年後に得られる100ドルの価値は、1.05の5乗を割り引いたもの、つまり現時点での78ドルの価値しかないと考える必要があるんです。つまりインフレ率を割り引くことで、将来価値を現在価値に換算する訳なのです。
従って、国債の本質価値の正確な評価にはインフレ率の評価が必要不可欠ということになります。では将来のインフレ率はどのようにして推測するのでしょうか?
イールドカーブと将来のインフレ予想
市場の皆が将来の金利・インフレ率をどの程度と推測しているか、これは債券の世界ではイールドカーブにその期待値が反映されます。
※Wikipedia US, Yield Curveより引用。2005年2月の米国債イールドカーブ。横軸に償還までの年数、縦軸に利回り(%)を記載。
上図は2005年の米国債のイールドカーブです。このイールドカーブとはその時点での年限ごとの国債の利回りをプロットしたものです。
ここでは10年債の利回りが4.4%ですから、10年後に向かいこの数値に準じたインフレ期待があった訳です。
それでは過去のイールドカーブをここで振り返ってみます。
1988年当時のイールドカーブを見てみると… その中の30年債の金利はなんと驚きの9.4%です!
つまり当時の市場参加者は30年後の2018年において、それほどの高金利が続くものと見込んで金利を設定していたわけです。というのは当時の金利はこの位の水準が常識だったからなのですが、もちろん現在ではこんな高金利はどこの先進国にも存在しません。
ここから分かることは一つ、マクロの予測は不可能ということです。
1988年当時、その数年後にソ連が崩壊し軍事需要によるインフレが終息を迎えることを予想することなど不可能でしたし、また出生率減の影響がインフレ率にどう影響を及ぼすかも予想は不可能でした。
多くの政治・経済要因の変数が絡む未来を予想するのは不可能ですし、従って先の米国債の本質価値の計算において、未来のインフレ率を正確に割引くのは不可能ということになります。
相対的な安全域という考え
という訳で、残念ながら米国債の厳密な本質的価値は分かりません。では米国債に資産を投じるべきおススメのタイミング・価格は分からないのでしょうか?
さて、ここからが当ブログのオリジナルです。
私は絶対的な安全域が評価出来ない場合は、他の資産クラスと比較して安全性が取れるかどうか、割安かどうかを重視します。
前回までにお伝えしたように、バブル崩壊を来したのは株式と債券の関係が、(株式利回り < 短期債利回り)となり、本来リスク資産である株式よりも、短期債の方が利回りが大きくなるように強く歪んだときでした。
しかし例えば1990年代-2000年代初頭のITバブルでは(株式利回り < 短期債利回り)の関係が上図のように3年ほど持続した後にバブルが崩壊しています。
そのため、仮に1997年に中長期債を全力買いだ!としてしまうと、その後の3年間は上がり続ける株価を尻目に、非常に悔しい思いをすることになったと思います。
安全域の取り方
債券というものがそもそも10年に1年しか株式をアウトパフォーム出来ず、またバブルの最中では損失を出しつづけることが多い性質の商品ですから、その購入開始に当たってはほぼ間違いなく、(株式利回り < 短期債利回り)となる期間を選び抜き、且つ安全性を保てるように十分安い購入価格を事前に設定しておく必要があると、私は思います。
そのため私は(株式利回り = 短期債利回り)となり、更にそれから債券(具体的には中期債)の価格が20-33%以上の下落を待ち安全マージンがとれてからの買い付けを検討します。
今後、例えば株式利回り3% (市場平均PER 33倍)、短期金利3%となり、あまりの株価の高さにバブル崩壊が懸念される状況になったとします。
しかし案外長く続くのがバブルというものですから、私はまずは短期債の購入・株式の買い付け停止にとどめ、直ぐに大量の中長期債を買い付けることはしません。
インフレ期待によりイールドカーブが変化し、中期金利が更に上昇し中期債が33%の価格下落を見たとき、仮に中期債金利が当初4.5%であったとすれば、6.8-8.3%以上をつけるときまで待ってから中期債を段階的に買い付けるでしょうね(注:2018年2月現在の修正デュレーションから計算しています)。
これほどまでに高金利となってから債券買い付けを検討するのであれば、中期債を高値掴みしたとしてもその損失は安全域がカバーしてくれる可能性が高く、また年7-8%の金利が得られるのであれば、このリターンを慰めとしながら、心理的にもバブルに沸く周囲の状況に何とか耐えぬくことが出来るかと思います。
ですが中期債金利が7-8%の高いレベルまで上がるのを待たずに、もしそれまでにバブルが早々に破綻してしまったら?
その場合は債券で利益を挙げることは出来ませんでしたが、それはそれで良しとしましょう。
あなたの手元には潤沢なキャッシュと、短期債による僅かなリターンが残っているハズです。バブル崩壊後の周囲に比べ輝くリターンが得られているものと思いますし、そして個人的にはスケベ心を出し過ぎたときに、大体相場って失敗することが多いように思います。
買い付ける債券の選択
なお、この際に用いる債券は金利が十分に上がるまでは短期債を中心とし、上の水準に至ったら中期債をわずかづつ徐々に組み込んでいくという、債券投資家からすると非常に防御的な布陣です。
というのは、結局、債券のキャピタルゲインで勝つことは歴史的な低金利の現状では極めて難しいからなんです。
仮にバブル時の中期債金利を5%とすると、債券で利益が得られるのは理論的に0-5%の金利幅でのキャピタルゲインが主になりますね。しかし、金利の下落幅は逆に過去の歴史的に5-20%まであり得るという、リスクベネフィットの非対称性がそこには存在する訳です。
現在、高齢化による低成長・低インフレが先進国の世界的トレンドですし、かつての冷戦やオイルショックといった需給構造を歪める要因も見当たらない以上、このトレンドが今後も持続するとは思うのですが、先が正確に見通せないのはもちろんのことです。
低確率ながらも期待値がマイナスとなりうる賭けである以上、十分以上に安全性を担保した取引、かつポートフォリオの一部でなければ行わない、これが私のスタンスです。そしてそれ故、ほぼ金利変動により損失を生じない短期債主体のポートフォリオに私は重きを置くのです。
この債券ポートフォリオの詳細な組み方に関しては、ちょっと記事が長くなり過ぎますので後のシリーズで詳しくお伝えしますね。
最後に
さていよいよ次回は、バブルが懸念される市況で実際に短期債・中期債・長期債をどのように使い分けるのか、国債現物・ETFのいずれを購入するのか、私の考えをお伝えしていきたいと思います。
本シリーズはマクロ経済を考える重めの内容が多く、ナンバーの数も長くなって参りました。今後も出来るだけ分かりやすく、株式投資家に必要な部分に絞ってお伝えしていこうと思いますので、次のシリーズも乞うご期待下さい。
スポンサーリンク
0 件のコメント :
コメントの投稿・確認
おすすめ記事とスポンサーリンク